9.無職者の逸失利益(稼動の部分)
63歳で半年前に離職・失業給付と老齢厚生年金受給
(稼動に係る逸失利益)
○ 無職者に稼動に係る逸失利益が認められる場合
稼動に係る逸失利益は、被害者が事故に遭遇したために死亡し、又は身体に後遺障害が残存した場合、事故に遭遇しなければ被害者が稼動能力を発揮し、被害者が将来稼動の機会を得る蓋然性が認められる場合には当然に算定されるべき損害賠償費目であるということができる。
無職者である被害者が将来稼動する機会を得る蓋然性があるか否かについては、被害者の主観的な就労の意思のみならず、被害者の年齢、健康状態、経歴、前職を離職した経緯、無職の期間の長短、無職の理由、資格や特技、資産、家計の収支内容、家族構成や他の家族構成員の収入の有無等の諸事情を総合的に考慮して認定していくことになる。
○ 稼動に係る逸失利益を認めることの合理性
被害者は本件事故当時無職であった。しかし、被害者が前職を離職してから本件事故に遭遇するまでの期間が半年に満たず、公共職業安定所に就労の意思を示した上で得られる求職者給付たる基本手当の受給期間中であったこと、息子さん2人が独立した収入を得ていたとしても被害者はそれらを家計への収入として期待していなかったことのほか、家計収支の状況や預金額に照らすと、同受給期間を経過して基本手当が得られなくなった場合、被害者が再就職して収入を得なければならない緊急性は高かったと考えられ、本件事故当時無職であるからといって将来も就労の意思を有せず、基本手当の受給期間が経過してもなお無職であり続けるであろうと考えるのは相当ではない。
……被害者が本件事故に遭遇しなければ、将来なんらかの稼動の機会を得て収入を得る蓋然性が高井と考えるのが合理的である。
○ 基本収入と稼動可能期間
被害者の稼動に係る逸失利益を算定するための基礎収入を設定するに当たっては、東京都の地域別最低賃金日額5,559円をもって算定するのが相当であり、1月当たりの稼動日数としては、年金収入を補完する位置づけとなると予想されることと、高齢でありパート労働の可能性もあることも考慮すると、20日とするのが相当である。
基礎収入は年額1,334,160円となる。(5,559円×20日×12月)
稼動可能期間の始期は、1年程の期間を経過した時(64歳)とし、終期については70歳とするのが相当である。(続く)
東京地裁 平成13年11月30日判決