相続・遺言の豆知識
文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.04.25
相続とは
いくら相続に関する法律の知識を身につけても、それだけでは役に立ちません。
問題の解決には、法定相続分で分けることや相続税を減らすことが必ずしも正しいとは限らないからです。
家族同士がお互いに「自分の意見こそが正しい」と、法定相続分を盾に権利を主張し合ったり、相手の相続分を少しでも減らすことばかりにとらわれていますと結果的に必ずもめる相続になってしまいます。
すべての人に必要なのが相続対策、わずかな人だけに必要なのが相続税対策です。
だからこそ本当は相続税対策ではなく、相続対策の方が断然重要なのです。
まず、最も大切なことはみなさまのご家庭で実際に相続が起こったときに、何が原因で争いになりそうなのかを頭に思い描くことです。
それがはっきりしなければ準備の仕様がありません。
その後、その問題を実際にはどうやって解決していったらよいのかを、ご家族や場合によっては行政書士などの専門家を交えて話し合い様々な検討を重ねていくのです。
そうすれば具体的な解決策への糸口が見えてきます。
FP松井宝史が、相談にのり、その後それぞれの専門家をご紹介いたします。
相続対策と相続税対策
相続は、人が亡くなることにより始まります。この世に生まれてきたのだから、誰にでも必ずご両親はいます。
そして順番通りにいけば、親は自分より先に亡くなります。だから「相続」対策は100人中100人、全員に必要なのです。
しかし、その相続対策の重要性を理解している人はほとんどいません。
そもそも、相続を身近で体験するのは、通常一生のうちに4、5回だけです。
また、たとえ相続に関して家族内でトラブルがあったとしても、たいていの人は、世間体もあるので知人や友人には話さないでしょう。
そのため、みな自分の身に実際に問題が降りかかってから始めて相続対策の重要性を知ることになるのです。
一方「相続税」対策が必要なのは、100人中8人の割合です。
この両方を混同して、「うちは財産が少ないから、相続対策なんて関係ない」と考えるのは大きな見当違いで、問題は財産の多い少ないにあるのではないことをお分かり頂きたいと思います。
相続対策と相続税対策の実際
では、相続対策、相続税対策とは、いったい何をすればいいのでしょうか。
☆ 相続対策
財産をいくら持っているか調べる
それを相続人間で分けられるか検討する
☆ 相続税対策
相続税がいくらかかるのか計算する
それを現金で払えるか検討する
相続税を生前に減らすことができるか検討し、実行する
つまり、相続対策は、財産を分けられるか(遺産分割対策)、相続税対策は、相続税を払えるか(納税資金対策)と相続税を減らせるか(相続税の軽減対策)なのです。
既に相続が発生
相続税の軽減対策は、通常生前に行われます。しかし、亡くなった後でも遺産分割・財産の評価・納税などを工夫することにより、相続税の納税額を少なくすることは可能です。
相続税を減らすことだけにとらわれるのは好ましくありませんが、当事者全員の合意が得られ、将来問題が生じない範囲であれば、検討してみるのもよいと思います。
男性(夫)が先に亡くなり、配偶者(妻)と子どもが相続すると仮定して説明してみます。
小規模宅地等の特例
亡くなった人が住んでいた自宅の敷地や、事業に使っていた土地は、一定の要件を満たせば土地の評価額が50%か80%減額されます。
原則的には、相続人が居住や事業を続ければ80%減額の要件を満たすので有利になります。
適用面積の上限は、50%減額のときには200㎡まで、80%減額のときには、居住用240㎡、事業用400㎡までとされています。
どの土地から適用を受けるかは、納税者が自由に選択できます。
自分の敷地を子どもが取得するとき、80%減額を適用するには厳しい要件があります。
しかし、配偶者が取得するときにはそのような要件が一切ありません。
配偶者でありさえすればよいのです。
要件を満たさない子どもがその土地を取得するとき、妻がわずかの持分でよいので取得するように遺産分割を行うと、妻だけでなく子どもも80%減額が適用できることになっています。
この規定を適用する上限は、面積で決められています。そのため、1㎡あたりの評価額が高い土地から適用した方が減額できる金額がより大きくなります。
ただし、妻には、配偶者の税額軽減により相続税がかからないことが多いので、1㎡あたりの評価額によりますが、できるだけ妻意外の人が取得する土地にこの規定を適用した方が相続税が少なくなります。
また、1㎡あたりの評価額が近い土地が複数ある場合、相続税の2割加算の対象になる人が取得する土地に適用した方が相続税が少なくなります。
死亡退職金
死亡退職金は、相続人が受け取った場合500万円×法定相続人の数の金額までは非課税です。
妻には、配偶者の税額軽減により相続税がかからないことが多いので、死亡退職金の受取人が決まってなければ妻以外の相続人が受け取ります。
退職金の非課税枠を配偶者の税額軽減の適用がない子供が使った方が、相続税の負担は少なくなります。
もし可能であれば、退職金を分割で受け取ることを選択します。
この場合、退職金は受け取り金額の総額ではなく年金受給権の評価額で相続税を計算することになっています。
年金受給権の評価額は、分割の年数が5年以内の場合には受け取り金額の総額の3割減、10年以内の場合には4割減とされています。
退職金の総額が非課税枠を超える場合には、分割払いでもらった方が、相続税の負担はかなり少なくなります。
しかし、この規定は毎年の税制改正のたびごとに改正されるのではないかと話題になっています。
いつまで適用できるかは、今後の税制改正次第だといえるでしょう。
不動産
相続した財産を相続税の申告期限から3年以内に売却するときには、所得税の計算上、払った相続税のうち一定額を経費にすることができます。
そのため、売却予定の不動産は、相続税の納税額が発生する人、つまり妻以外の人が取得した方が将来の売却に係る所得税が得になります。
また、自宅から遠く離れた山林や荒れ果てた土地など、自分にとっては不要な財産にも相続税や毎年の固定資産税はかかります。
このような土地を相続税の申告期限までに国や地方公共団体などに寄付をすれば相続税はかかりません。
FP松井宝史