自賠責保険と自動車保険の豆知識

健康保険とは

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.05.27

健康保険の内容

健康保険は、一般には社会保険といわれますが、保険者が、被保険者(およびその被扶養者)の業務外の事由による病気、負傷等に対し保険給付を行うことを目的とします。

健康保険は、民間の適用事業所に勤務している人を対象とした職域保険ないし被用者保険であり、加入は原則的に強制加入とされています。

また、健康保険は、医療を給付することを主たる目的とすることから、医療保険に分類されます。

健康保険の保険者は国及び健康保険組合です。

健康保険の種類は大きく現物給付と現金給付に分かれます。現物給付の内容は、「療養の給付」であり、現金給付の内容として特定療養費、高額医療費、傷病手当金などがあります。

第三者行為

交通事故によって人が負傷した場合、ケガの治療を自賠責保険ではなく社会保険(健康保険)で行うこともできます。

この点は、行政解釈が、「自動車による保険事故も一般の保険事故となんら変わりが無く保険給付の対象となる」としています。

(健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取り扱いについて:昭和43.10.12保険発第106号)

この場合、ケガの治療を受けようとする被害者は、病院の窓口で健康保険の被保険者証を提示しなければなりません。

そして、一部負担金を窓口で支払います。さらに、被害者は「第三者の行為による傷病届」をすみやかに保険者に提出しなければなりません。

そして、病院は、当該被害者に対し、診察を行い、薬剤を支給し、処置等の治療を行うことによって保険給付を行います。

当該病院は、医療費の7割に相当する金額を保険者である国または健康保険組合に対して請求します。

これに応じて保険者は、病院に対し医療費を支払います。

この場合、保険者が保険給付をしたもともとの原因は、交通事故を起こした加害者にあり、このような場合を第三者行為といいます。

保険者は、第三者行為に関して保険給付が行われた場合、保険給付の価格の限度で、被害者が加害者(第三者)に対して有する損害賠償請求権を当然に代位取得できます。

つまり、第三者に対し求償することができます。

私どもの事務所(社会保険労務士法人愛知労務)では、永年、第三者行為災害届の手続きをやってきました。

本当にたくさん業務としてやってきましたので、得意中の業務となっています。

保険給付と損害との関係

被害者が健康保険を使うことなく自由診療で受診し、病院の窓口で治療費を支払った場合、その支払額が「損害」に該当することに異論はありません。

では、被害者が健康保険を使ってケガの治療を受けた場合に、保険給付額を被害者が受けた「損害」として考えることができるでしょうか。

この場合、事故の被害者が健康保険を使ってケガの治療を受けることによって、直ちに保険給付分の損害が填補され、同時に当該損害賠償請求権は保険者に当然移転します。

保険者からの求償に応じて加害者が支払をすることによって、初めて被害者の損害が填補されるという関係にはありません。

よって、被害者の被った損害を計算するに当たって、治療費のうち、健康保険から保険給付を受けた金額については、損害に計上しない取り扱いが妥当であると考えます。(大阪地判平12.9.14交民33.5.1507)

示談と求償関係

例えば、被害者が保険給付を受ける前に、加害者との間で示談を成立させ、損害賠償請求権を放棄し免除したとします。

ところが、被害者は、その後になって体に異常を感じ、健康保険を使って病院で治療を受けたとします。

この場合、保険者である健康保険組合は、被害者の損害賠償請求権を代位取得できないと解されます。

保険給付をした時点で、被害者の加害者に対する損害賠償請求権が存在しないからです。(最判昭38.6.4民集17.5.716)

これに対し、被害者が病院で治療を受けた後に、加害者と示談をして債権債務がないことを確認した場合に、保険者の加害者(第三者)に対する損害賠償請求権の代位取得には影響がありません。

保険者は、保険給付と同時に損害賠償請求権を代位取得してしまっているからです。

自賠責保険への求償

保険者が第三者に対する損害賠償権を取得する場合、ここでいう「第三者」とは、単に事故の加害者のみを意味するものではなく、加害者の被害者に対する損害賠償債務を減額ないし免除する効果を持つものであれば良いとされます。

その結果、自賠責保険なども含まれることになります。

例えば、被害者が傷害を負ったことによる全損害賠償額が70万円だったとします。

そして、健康保険の保険者は、40万円の保険給付をしていたとします。この場合、被害者は自賠責保険に対して70万円の被害者請求ができます。

また、保険者も同様に40万円を求償できます。障害による損害の自賠責保険金額の枠は120万円ですから、求償上は特に問題がありません。

では、上記の例で、被害者の全損害賠償額が100万円であったときはどうなるでしょうか。

この場合、被害者の全損害賠償額100万円と保険者の給付額40万円の合計額は140万円となります。

しかし、自賠責保険(傷害による損害分)は120万円しかないため、請求額の7分の6ずつを支給することになると考えられます。

被保険者に過失がある場合の求償関係

実際の交通事故においては、被害者である被保険者にも多少とも過失のある場合のほうがむしろ多いでしょう。

この場合、保険者が代位取得する損害賠償請求権は影響を受けるのでしょうか。

行政解釈は、保険給付の全額について、損害賠償請求権を代位取得するという原則をとりつつ、実際の求償額については、被害者の過失割合に応じて減額して差し支えないとしています。

(第三者事故により生じた保険事故の取り扱いについて:昭54.4.2保険発第24号、庁保険発第6号)

例えば、事故の当事者間で、両者の過失割合は50対50であるとする示談が成立したとします。

ところが、保険者において被害者の過失は3割しかないと独自に判断し、加害者に対し保険者負担分の7割相当額を求償した場合はどうでしょうか。

保険者が代位取得する損害賠償請求権は本来は被害者に帰属していたのであり、独立して代位取得した損害賠償請求権があるわけではないという考え方にたてば、加害者は示談で決められた5割相当額の求償にしか応じないという結論になります。

しかし、前掲行政解釈によれば、「過失割合の認定に当たっては、両当事者の主張の内容、事故発生時の状況等を総合的に勘案し、保険者において妥当な過失割合を求めること」とされています。この立場によれば、保険者は事故の当事者が決めた過失割合に必ずしも拘束されることなく、独自に認定したうえで、求償できるということになっています。

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