自賠責保険と自動車保険の豆知識

自賠責保険Q&A

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.05.30

自賠責保険Q&Aについて解説します

Q自賠責保険はどのようなときに保険金が支払われますか。また、対物賠償事故を起こしてしまった場合、保険金は支払われますか。

A自賠責保険は、「被保険者が自動車の運行によって、他人を死傷させた場合に法律上の損害賠償責任を負担することによる被保険者の損害」に対して保険金が支払われます。

従って、対人賠償事故のみが保険金支払いの対象となりますので、対物賠償事故について補償されません。

Q自賠責保険の限度額はどうなっていますか?

A2020年4月1日以降の場合は、下記のようになっています。

被害者1名について支払限度額と請求できる範囲は次のとおりです。

傷害による損害

傷害による損害は、治療関係費、文書料、休業損害および慰謝料が支払われます。

尚、物的損害については支払われませんが、被害者が負傷した際、義肢・メガネ等身体の機能を補う物が破損した場合には、例外的にその費用についても支払われます。

傷害事故

支払限度額

被害者1名につき120万円

治療費関係費他

治療費

内容・・・診察料、入院料、投薬料、手術料、処置料、柔道整復等の費用など

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費

必要書類・・・診断書、診療報酬明細書、柔道整復の場合には施術証明など

通院費等

内容・・・通院、転院、入院又は退院に要した交通費

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費

必要書類・・・通院交通費明細書、タクシー利用が認められる場合はその領収書

通院費等

内容・・・入院中の看護料「原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合」自宅看護料または通院看護料(医師が看護の必要性を認めた場合または12歳以下の子供の通院等に近親者等が付き添った場合)

お支払の基準・・・入院1日につき4,200円、自宅看護または通院1日につき2,100円
これ以上の収入減の立証がある場合は近親者は19,000円を限度として実額
近親者以外は地域の家政婦料金を限度としてその実額

必要書類・・・医師の要看護証明(診断書に記載してもらいます)
近親者の付き添いの場合は付添看護自認書
看護人・家政婦からの請求書・領収書

諸雑費

内容・・・入院中の諸雑費

お支払の基準・・・原則として入院1日1,100円

必要書類・・・領収書(上記の金額を超える場合にのみ必要)

義肢等の費用

内容・・・義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖等の費用

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費、眼鏡の費用は50,000円が限度

必要書類・・・領収書

診断書等の費用

内容・・・診断書、診療報酬明細書等の発行手数料

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費

必要書類・・・上記「治療費」に記載のもの(原本)

文書料

内容・・・交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行手数料

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費

必要書類・・・それぞれの文書の原本、領収書

その他の費用

内容・・・治療関係費以外で事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用など

お支払の基準・・・必要かつ妥当な実費

必要書類・・・領収書

休業損害

内容・・・事故による傷害のために発生した収入の減少(有給休暇を使用した場合、家事従事者の場合を含む)

お支払の基準・・・原則として1日につき6,100円
これ以上に収入減の立証がある場合は19,000円を限度として実額

必要書類・・・給与所得者の場合は休業損害証明書(前年度の源泉徴収票を添付)
給与所得者以外の場合は前年分の、税務署の受付印のある確定申告書(控)、納税証明書・課税証明書(所得金額の記載されたもの)など
家事従事者の場合は、家族の記載のある住民票など

慰謝料

内容・・・精神的・肉体的な苦痛に対する補償

お支払の基準・・・1日につき4,300円
対象となる日数は治療期間の範囲内

必要書類・・・なし

後遺障害を残した事故

支払限度額

被害者1名につき 4,000万円~75万円(等級により異なります)

後遺障害を残した事故の場合は、身体に残った障害の程度に応じた等級によって逸失利益および慰謝料等が支払われます。

なお、後遺障害とは、事故によって身体に回復が困難と見込まれる障害が残ったため、労働能力や日常生活に支障があると認められる場合をいいます。

後遺障害の等級・支払限度額は、「神経系統の機能または精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、常時または随時介護を要する後遺障害」と「それ以外の後遺障害」ごとに定められています。

①神経系統の機能または精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、常時または随時介護を要する後遺障害・・・支払限度額 1級 4,000万円、2級 3,000万円

②上記①以外の後遺障害 支払限度額 1級 3,000万円~14級 75万円

逸失利益

内容・・・身体に障害を残し労働能力が減少したために将来発生するであろう収入減

お支払の基準・・・収入および各等級(1~14級)に応じた労働能力喪失率、喪失期間等により計算します

必要書類・・・後遺障害診断書、収入減を証明できる資料
前年分の源泉徴収票、税務署の受付印のある確定申告書(控)、納税証明書・課税証明書(所得金額の記載されたもの)など

慰謝料等

内容・・・事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償等

お支払の基準・・・上記①の後遺障害
1級 1,650万円、2級 1,203万円
なお、初期費用分として1級500万円、2級205万円が加算されます。

上記②の後遺障害
1級 1,150万円~14級32万円

ただし、①および②の後遺障害において、第1級~3級で被扶養者がいるときは増額されます。

必要書類・・・後遺障害診断書、収入減を証明できる資料
前年分の源泉徴収票、税務署の受付印のある確定申告書(控)、納税証明書・課税証明書(所得金額の記載されたもの)など

死亡事故

支払限度額・・・3,000万円

死亡事故の場合は、葬儀費、逸失利益、被害者本人の慰謝料および遺族の慰謝料が支払われます。

なお、死亡にいたるまでの障害により生じた損害については、傷害事故を参照してください。

私の母の場合も、平成4年11月20日午後4時35分ごろ自転車に乗って横断歩道を青信号で渡っているときに、右折の自動車に跳ねられて翌日、午前8時に亡くなりました。

現場即死ではないので、「死亡にいたるまでの障害により生じた損害」が存在しました。

葬儀費

内容・・・通夜、祭壇、火葬、埋葬、墓石などに要する費用(ただし墓地、香典返しなどの費用などは含まれません)

お支払の基準・・・100万円

必要書類・・・領収書、明細書

逸失利益

内容・・・被害者が死亡しなければ将来得ることができたと考えられる収入額から本人の生活費を控除したもの

お支払の基準・・・収入および就労可能期間・被扶養者の有無等を考慮のうえ計算します。

必要書類・・・死亡診断書(死体検案書)
収入額を証明できる資料
前年度の源泉徴収票、税務署の受付印のある確定申告書(控)、納税証明書・課税証明書(所得金額の記載されたもの)など
省略の無い戸籍(除籍)謄本(被害者の出生から死亡までの全記録)

相続人、遺族慰謝料請求権者を特定するために必要となります

慰謝料

内容・・・被害者本人の慰謝料

お支払の基準・・・400万円

内容・・・遺族の慰謝料
遺族慰謝料請求権者(被害者の配偶者、子供および父母)の人数により金額が異なります

お支払の基準・・・請求権者 1名の場合 550万円 2名の場合 650万円 3名以上の場合 750万円

被害者に被扶養者がいるときはさらに200万円が加算されます

必要書類・・・死亡診断書(死体検案書)
収入額を証明できる資料
前年度の源泉徴収票、税務署の受付印のある確定申告書(控)、納税証明書・課税証明書(所得金額の記載されたもの)など
省略の無い戸籍(除籍)謄本(被害者の出生から死亡までの全記録)

相続人、遺族慰謝料請求権者を特定するために必要となります

Q自賠責保険で支払われない場合がありますか

A自賠責保険は、自動車の運行によって他人を死傷させ、加害者が法律上の損害賠償責任を負った場合の損害について支払う保険です。

このため、次のような場合には、自賠責保険では支払われません。

1 加害者に賠償責任がない場合

①赤信号で止まっている自動車に相手が衝突して死傷した場合

②自分の自動車が信号無視をして赤信号で交差点に進入し、相手が青信号で侵入して衝突して自分が死傷した場合

③センターラインオーバーし、対向車線を走っていた自動車と衝突して死傷した場合

2 自動車の運行によって死傷したものではない場合

駐車場に駐車してある自動車に、ローラースケートで遊んでいた子供がぶつかって死傷した場合

3 賠償責任を負う加害者がいない場合

オートバイを運転していて自ら電信柱に衝突して死傷した場合

4 被害者が他人ではない場合

事故を起こした際、その自分の自動車に同乗していた自分が死傷した場合

Q自賠責保険(共済)に被害者請求したいのですが、加害者の自賠責保険会社(組合)を調べるためには、どのようにしたら良いですか。

交通事故証明書に当事者の自賠責保険会社(組合)や証明書番号が記載されています。

交通事故証明書は、事故が起きた場所を管轄する「自動車安全運転センター」が発行しています。

交通事故証明書の申請用紙は、最寄の警察署、派出所及び自動車安全運転センターに備え付けてあり、最寄りの郵便局で交付手数料を添えて申請することとなります。

また、Webにても申し込みができます。

Q加害者側から賠償が受けられていないのですが、他に請求の方法はありますか。

加害者の加入している自賠責保険会社(組合)へ被害者の方が直接請求する方法があります。(被害者請求)

Q自賠責保険(共済)を請求できるのはいつまでですか。時効はありますか。

加害者請求は被害者に賠償金を支払った日から3年以内です。

被害者請求は事故が起こった日から3年以内です。

ただし、死亡の場合は死亡日から、後遺障害の場合は後遺障害の症状が固定した日から、それぞれ3年以内です。

何らかの理由で請求が遅れる場合は、各保険会社(組合)にお問い合わせ下さい。

尚、平成22年3月31日以前に発生した事故については、すべて3年ではなく2年となります。

Q自賠責保険の損害調査は、どのように行われるのですか?

A損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が調査し、その結果に基づいて各保険会社が保険金(損害賠償額)を決定のうえ支払います。

自賠責保険では、数多くの請求に迅速かつ公正に対応するため、各保険会社の窓口で受付けられた請求は、すべて損害保険料率算出機構(以下「機構」といいます。)(注)の自賠責損害調査事務所が調査し、その結果に基づいて最終的に各保険会社が保険金(損害賠償額)を決定のうえ、支払います。

注 「損害保険料率算出団体に関する法律」に基づく団体で、その事業の一環として、機構の自賠責損害調査センターにおいて、全国に地区本部、自賠責損害調査事務所を設置し、自賠責保険(共済)の損害調査を行っています。

保険金(損害賠償額)の支払いまでの具体的な事務の流れは、次のとおりです。

①請求者は、必要な請求書類を保険会社に提出します。

②保険会社は、書類を点検したうえで、機構の自賠責損害調査事務所に損害調査を依頼します。

③自賠責損害調査事務所は、請求書類に基づいて、事故発生の状況、支払いの的確性(自賠責保険の支払対象となる事故かどうか、また死亡・傷害と事故との因果関係など)および発生した損害の額などを公正かつ中立な立場で調査し、その結果を保険会社に報告します。なお、請求書類の内容だけでは事故に関する事実確認ができないものについては、事故当事者や病院への照会、事故現場の調査など必要な調査を行います。

④保険会社は、自賠責損害調査事務所からの報告に基づき、支払額を決定し、請求者に支払います。

なお、仮渡金の支払いがあった場合は、その分を差し引いて支払います。

Q自賠責保険では、損害賠償額が確定していなくても、当座の治療費を支払ってくれると聞きましたが、本当ですか?

A損害賠償額が確定していなくても、保険金の請求ができます。

自賠責保険では、治療費や休業損害等の損害賠償額が最終的に確定していなくても、すでに発生している費用等があれば、保険金の請求をすることができます。

なお、治療費や休業損害等を請求する場合には、すでに費用や損害が発生しているという立証資料を提出する必要があります。

加害者がすでに被害者にそれらの金額を支払っていれば、加害者から保険会社に請求することになります。

また、上記以外に仮渡金制度があります。

仮渡金 治療費など当座の費用として、総損害額が確定前であっても仮渡金の請求ができます。

被害者側が加害者の契約している保険会社に請求すれば、次の金額が支払われます。なお、加害者側からは請求できません。

①死亡の場合…290万円

②傷害の場合…その程度に応じて、40万円・20万円・5万円の3段階に分かれています。


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