業務上の負傷について
業務上と認められるためには業務起因性が認められなければならず、その前提条件として業務遂行性が認められなければなりません。
この業務遂行性は次のような3つの類型に分けることができます。
(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
担当業務、事業主からの特命業務や突発事故に対する緊急業務に従事している場合
担当業務を行ううえで必要な行為、作業中の用便、飲水等の生理的行為や作業中の反射的行為
その他労働関係の本旨に照らし合理的と認められる行為を行っている場合など
(2)事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
休憩時間に事業場構内で休んでいる場合、事業附属寄宿舎を利用している場合や事業主が通勤専用に提供した交通機関を利用した場合など
休日に構内で遊んでいるよう場合は、事業主の支配・管理下にあると言えません
(3)事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張や社用での外出、運送、配達、営業などのため事業場の外で仕事をする場合
事業場外の就業場所への往復、食事、用便など事業場外での業務に付随する行為を行う場合など
出張の場合は、私用で寄り道したような場合を除き、用務先へ向かって住居又は事業場を
出たときから帰り着くまでの全行程に亘って業務遂行性が認められます。
上述の(1)~(3)の場合に業務起因性が認められるか否かについては、次のようになります。
(a)事業主の支配・管理下にあって業務に従事している場合
この場合、災害は被災労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられますので、他に業務上と認め難い事情がない限り、業務上と認められます。
業務上と認め難い特別な事情としては次のような場合などが考えられます。
被災労働者が就業中に私用(私的行為)又はいたずら(恣意的行為)をしていて、その行為が原因となって災害が発生した場合
労働者が故意に災害を発生させた場合
労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
(b)事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の施設管理下にあると認められますが、休憩時間や就業前後は実際に仕事をしているわけではないので行為そのものは私的行為です。
この場合、私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められません。
休憩時間に同僚と相撲をとっていて腰を痛めた場合やキャッチボ-ルの球を受け損なって負傷した場合など。
なお、事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は業務災害となります。
寄宿舎が雪崩で倒壊して被災した場合や休憩時間に構内で休憩中トラックと接触して被災した場合など
(c)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張などの事業場施設外で業務に従事している場合は事業主の管理下を離れているが、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから、途中で積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務遂行性が認められます。
さらに業務起因性についても特にこれを否定すべき事情がない限り、業務災害と認められます。
労働者が負傷した際、それが業務上の負傷と認められるためには「業務遂行性」と「業務起因性」が求められます。
つまり「仕事中に、仕事と関係して怪我をした」ことが条件となります。
勤務中に作業をしていて骨折した、などという場合はこれが明確です。
一方で、例えば仕事をするための準備中に負傷した場合や、休憩時間に負傷した場合などはどうなるのでしょうか。
以下のケースをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
1.事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
業務時間中や残業中に、事業所内で勤務している場合です。
労働者自身の担当業務のほか、事業主の命令で担当外の業務に従事している場合もこれに含まれます。
また、担当業務を行うために必要な行為(作業に伴う準備や後始末など)、水を飲んだり用を足しにトイレに行くなどの生理的な行為を行っている場合も含まれます。
この場合は原則として業務上の負傷と認められます。
認められないケースとしては、労働者が勤務中に行った私的行為(使用の電話をかける等)が原因となっている場合、労働者の故意による事故の場合、労働者が個人的な恨みなどにより第三者から暴行を受けて怪我をした場合などがあります。
2.事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
休憩時間や就業時間前後など、業務に従事はしていないが、事業所内にいるという場合です。
休憩時間ではあっても、事業主の管理下にある限りは業務遂行性があるとされます。
そのため、怪我の原因が何であったか(業務起因性があるのかどうか)が問題となります。
例えば休憩中に同僚とキャッチボールをしていて怪我をしたなど、私的行為によって負傷した場合は業務上の負傷とはなりません。
一方で、事業所の施設や設備の管理状況が原因で負傷したとき(例えば事業所内で休憩中、棚が倒れてきて負傷した等の場合)には、業務上の負傷と認められます。
3.事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張先や、営業や配達の業務やその他社用での外出中など、事業場外で仕事をしている場合です。
出張の場合、特別な事情がない限りは全過程(家や職場を出発してから帰ってくるまで)が事業主の支配下にあるとされます。
この場合は事業主の管理下を離れてはいるものの、事業主の命令を受けて仕事をしている状態ですので、積極的な私的行為を行うなど特段の事業がない限り、業務上の負傷と認められます。
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