相続・遺言の豆知識

相続放棄とは

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.04.25

相続放棄

相続人が、亡くなった人のすべての権利義務を引き継ぐことを「単純承認」といいます。

その逆に、すべての権利義務を放棄することを「相続放棄」といいます。

債務の有無が相続放棄の要件ではないため、マイナスの財産が多いときだけではなく、財産と債務のどちらが多いか分からないときや、債務はないけれど親族間の相続争いに巻き込まれたくないというときでも各相続人は個別に相続放棄をすることができます。

相続放棄を行うには、相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内に亡くなった人の住所地の家庭裁判所に対し「相続放棄申述書」を提出しなければなりません。

相続発生後はとてもあわただしく、3ヵ月はあっという間に過ぎてしまいますので、注意が必要です。

申述書は家庭裁判所で入手できます。

その書類に相続財産の種類やおおまかな金額を記載し、相続人の戸籍謄本、亡くなった人の戸籍(除籍)謄本、住民票の除票を添付して申請します。

いつから3ヵ月以内か

民法では、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に放棄をしなければならない」と定めています。

この期間を熟慮期間といいます。

ポイントは相続開始の時からではない点です。

では、前の順位の相続人が相続放棄を知らずに自分が相続人となっていたときにはいつから3ヵ月以内になるのでしょうか。

自分が相続人であることを認識した時は、亡くなったことを知った時ではなく、前の順位の相続人が相続放棄をしたことを知った時です。

それから3ヵ月の間が、相続放棄が可能な期間になります。

3ヵ月たっていないのに放棄できない場合

相続人が財産の全部または一部を処分したときには、たとえ3ヵ月以内であっても単純承認したものとみなされ、その後は相続放棄をすることができなくなります。

相続放棄をした後に相続財産を隠したり使ったりしたときも同じです。

遺産分割を行うこと、相続した財産を売却すること、亡くなった人の預金を使うこと、債権の取立てを行うことなどが財産の処分に該当します。

相続財産からの葬儀費用の支払いや、形見分け程度の財産分けは、処分にあたらないとした裁判例があります。

しかし、単純承認をしたといわれないために、相続財産にはできるだけ手をつけない方が無難です。

3ヵ月たっていても放棄できる場合

相続財産の調査に時間がかかるなど、3ヵ月以内に判断することが難しいときには、熟慮期間の延長を裁判所に申し立てることができます。

また、3ヵ月をすぎてから、債権者が相続人に連絡をしてくるなど、借金があることを知らずに3ヵ月がたってしまうことがあります。

この場合、財産や債務がまったくないと思っていたことにやむをえない事情があるときだけは例外的に「債務があることを知った時」から3ヵ月以内は相続放棄が認められる可能性があります。

口頭での放棄・生前の放棄は無効

相続放棄は、実際に相続が発生した後にしかできません。

亡くなる前に、口頭や書面で相続財産はいらないと約束していたとしても、それは相続放棄ではないので、法律的な効力はありません。

相続放棄と遺留分の放棄の違い

相続放棄と違い、遺留分の放棄は相続開始前でも行うことができます。

相続放棄は、相続自体を放棄するので、初めから相続人にならなかったことになります。

しかし、遺留分の放棄は、相続自体を放棄するわけではありません。

相続が発生すれば当然相続人になり、遺産分割協議にも参加して、法定相続分を相続する権利があります。

借金があればそれも負担します。

あくまで遺言書があり、その遺言書が遺留分を侵害しているときに、遺留分の減殺請求をする権利を放棄しているだけです。

遺言書がなければ意味をなしません。

遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可が必要です。

強制や脅迫によるものではないか、放棄する代わりに何か財産をもらっているかを確認するためです。

相続放棄をしても遺族年金はもらえます

遺族年金は、残された家族の成形を維持するためのものです。

法律で支給対象者と決められている人固有の財産であり、相続財産ではありません。

法律の要件さえ満たしていれば、相続放棄をしても受け取ることができます。

生命保険金・死亡退職金は

生命保険金や死亡退職金は、受取人が亡くなった人以外に指定されていれば相続放棄をしても受け取ることができます。

生命保険金の受取人は、保険証券を見ればわかります。

亡くなった人が受取人のとき、保険金は相続財産になりますので相続放棄をすると受け取れません。

受け取ってしまうと単純承認をしたとみなされてしまいます。

亡くなった人以外が受取人のとき、保険金は受取人固有の財産になりますので、相続放棄をしても受け取ることができます。

受取人には、特定の相続人が指定されていても、または単に相続人とされていてもどちらでも大丈夫です。

一方、退職金の受取人は、法律や勤めていた会社の退職金規定などで決められています。

労働基準法上の遺族補償と同じ順位とされていることが多いようです。

この場合、退職金は受取人固有の財産になりますので、相続放棄をしていても受け取ることができます。

退職金の受取人が決められていないとき、退職金は未払いの給与として亡くなった人が取得すべき財産つまり相続財産になりますので、相続放棄をすると受け取れません。

放棄の取消

いったん相続放棄をしてしまうと、たとえ3か月以内であっても撤回することができません。

ただし、詐欺や脅迫により放棄させられたときには、家庭裁判所に申述して撤回できることがあります。

子供が自分の相続分を母に譲りたいと思い、相続放棄をしてしまったときなどには取消ができませんので十分な注意が必要です。

相続分皆無証明書

相続分皆無証明書(特別受益証明書)とは、亡くなった人から生前に多額の贈与をうけているため自分が相続する分はないということを書いた書面のことをいいます。

この証明書があれば不動産の相続登記が出来るため、遺産分割協議や相続放棄をする手間を省くための簡便な方法として実務上広く行われています。

一方、相続人の1人がこの書面を他の相続人に送り、財産や債務の内容も知らせないまま署名捺印を要求することがあります。

しかし、この証明書へ署名捺印することイコール相続放棄ではありません。

これによりプラスの財産をもらう権利がなくなっても、マイナスの財産を引き継ぐ義務は残ってしまうのです。

この証明書への署名捺印と引き換えに財産を引き継ぐ相続人だけが債務を引き継ぐと決めてもかまいません。

しかし、その約束が有効なのは相続人同士の間だけです。

法律上、債務は法定相続分に応じて引き継ぐことになっているため、債権者は相続人全員に対して法定相続分に応じた債務の返済を請求できる権利があるのです。

特定の相続人だけが債務を引き継ぐためには、債権者の承諾が必要です。返済能力の無い相続人が債務を全額引き継いだため、債権者がその人にしか返済を請求できないとなると回収できない可能性があるからです。

相続放棄をしていれば初めから相続人とはならなかったとみなされますのでこのような心配はありません

FP松井宝史

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