相続・遺言の豆知識

遺言書作成について

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.05.05

法定相続の基本

遺言は、遺言者が自分の死後に自分の財産を生前と同じように意思表示によって自由に処分しようとするものです。

遺言が無い場合は死者の意思がまったく反映されないまま、法律(民法)の規定により決められている相続人の順位・割合に従って残された財産が相続されていくことになります。

これが法定相続というものです。

法定相続では、相続人が妻又は夫といった配偶者の系列と、子供、親、兄弟姉妹などの血族の系列に分かれています。

配偶者は、生きている限り常に法定相続をする権利があります。

一方、子供、親、兄弟姉妹などの血族は、第一順位が子供(代襲相続権を含む)、子供がいないときは、第二順位の父・母などの直系尊属、ここでも誰もいないならば第三順位の兄弟姉妹が相続権を持つというように順次繰り下がっていきます。

相続分の割合は、相続人が第一順位の子供(養子を含む)と配偶者の場合は両者で2分の1ずつ(子供の分は子供の頭数で均等に割ります)、第二順位の直系尊属(親など)と配偶者の場合は直系尊属が3分の1で配偶者が3分の2、第三順位の兄弟姉妹と配偶者の場合は、兄弟姉妹が4分の1で配偶者が4分の3となります。

遺言は若くて元気なうちに

遺言は病気になってから書いたり、老人になってからあわてて書くものではありません。比較的若くて元気なうちこそ、書いておくべきなのです。

病気になると、気が弱くなって判断がにぶったり、間違ったりするからではなく、書いた遺言がせっぱつまってから書いた場合、その効力が争われることがあるからです。

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。と民法に規定されていますので、遺言者が、いつ、どのような体調のときに遺言を書いたのかということが問題となります。

遺言を書いたときに、遺言者がすごく老齢であったり、重病であったりしたことが分かると、遺言者の意思能力について争いが生じます。この争いを防止するためにも、若くて元気なうちに遺言をしておいて下さい。

認知症になったら遺言書は残せません  

遺言能力があると認められるには、残した遺言書の内容を理解し、かつその遺言によって自分の死後に財産がどのようになるのかを理解できるレベルの能力が必要です。

認知症の患者数は年々増加しており、高齢になればなるほど割合は多くなっています。

このようなことから、遺言所の有効・無効をめぐる争いの中でも、遺言能力があったかどうかをめぐる争いが非常に多くなっているのです。

自分自身で書く遺言(自筆証書遺言)は、公正証書遺言と比べると遺言を書いた時の遺言能力が否定されてしまう危険性が一段と高くなってしまいます。

一方で公正証書遺言の場合、遺言をするときに公証人の方が遺言能力の有無を確認しますので、争いになることはほとんどなく、安心です。

遺言書を書くときの注意点

遺言には、一定の形式が要求されますが、書く用紙は自由です。

原稿用紙でも、便箋でもOKです。

自筆証書遺言は、原則として遺言者本人の自筆によりますが、パソコンなどで作成した財産目録のみは認められるようになりました。

手書きで署名し、押印しても無効です。

遺言書を書くときに相続する人の名前や遺産の指定を間違えないように注意してください。

家屋や土地の所在地や地番の間違いが一番多いそうです。

遺言書を作成する時は、相続人名簿と、財産目録を作成しておいて下さい。

遺言者の意思能力の立証も大切なことです。その方法としては、本人が自筆の書面を書いておくとか、医師の診断を受けて精神状況の診断書をとっておくことが望まれます。

老人性痴呆症が疑われる方は、神経心理学的検査を受けておくことをお勧めします。

遺言書の署名と押印

署名については、民法では「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び指名を自署し、これに印を押さねばならない」と規定しています。

氏名とは、戸籍上の姓名のことですが、本人だと判断できれば名前だけの記載だけでもかまいません。

ただし、姓だけの署名については、相続人が家族や親戚であることを考えると、避けたほうがいいと思われます。

押印については、実印を必ず使用しなければならないという決まりはありませんが、できれば実印を押しておいた方がよいと思います。

尚、遺言者の死後に、遺言書に押印がないのを知った相続人などが印鑑を押しますと、遺言書を偽造・変造したとみなされます。

更に、印鑑を押した人は相続欠格者となる可能性もあります。

自筆証書遺言と秘密証書遺言は、遺言者本人の署名押印が必要ですので、署名押印がないものは無効となります。

遺言を訂正する時の注意点

遺言の加筆や訂正は、一定の形式によらないと無効となり、原文通りの遺言書となります。

内容の多くを訂正するときは、遺言書を書き直すほうが得策です。

自筆証書遺言の訂正は、遺言者が自筆で、遺言書にその場所を指示し、その部分について変更した旨を付記し、その付記について署名をし、実際の変更をその部分に加え、変更の場所に印鑑を押します。

変更の場所に印鑑を押す方法は、通常行うように、上欄に訂正印を押すという方法ではないので充分注意してください。

目的財産を記す際に、注意すべき点

遺言において目的財産を記す際に、注意すべき点があります。

それは、目的財産が特定できるように記載するということです。

ご自身の意向通りに相続をしてもらうためにも、また、残された相続人たちの手続きがスムーズに進むためにも大切です。

もちろん、客観的に特定が不完全であったとしても、一定の範囲の人の間でその呼称が特定の物件を指示するものとして使用されており、相続人たちの間で該当する物件が明らかであるような場合には問題なく相続を進めることができます。

しかし、遺言の内容を明確にし、スムーズに相続の手続きを行ってもらうために、目的財産はできるだけ正確に記載することが望ましいのです。

また、遺産の全てを特定の相続人に相続させたいという場合も、「一切の財産」という表現でも問題はありませんが、登記手続きの便宜や相続人に遺産の内容を明らかにするためにも、具体的に記載しておいたほうがいいでしょう。

◆不動産◆

不動産の場合、登記事項証明書に記載されている通りに記載します。

例えば土地であれば、所在・地番・地目・地積を記載し、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積を記載します。

未登記の建物の場合は、固定資産課税台帳等により記載し、未登記であるということを明記しておきます。

◆預貯金◆

普通預金の場合、口座の種類、口座番号または記号・番号(ゆうちょ銀行の場合)、口座名義人を記載します。

額面金額は変動するため、記載する必要はありません。

◆死亡退職金◆   

死亡退職金が遺言の対象となる相続財産にあたるかどうかが問題となることがあります。

一般的に民間企業の多くや国家公務員の場合、死亡退職金は第一順位の受給資格者を配偶者とし、配偶者がい無い場合には子、父母等で労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持し又は生計を一にしていた者等とする退職金規定が設けられています。

このような規定が設けられている場合、死亡退職金は相続財産ではなく、遺族が固有の権利として受給することができる生活保障となります。

◆生命保険◆

遺言者を被保険者とする生命保険が契約されていた場合、遺言者が死亡すると契約書にて指定された保険金受取人に対し、保険金が支払われます。

これは相続財産とはならず、受取人に与えられた固有の権利となります。

一方で、遺言者が保険契約者で、遺言者以外の方を被保険者とする生命保険が契約されていた場合、保険契約者としての権利は相続の対象となります。

この場合、保険契約を解約して解約返戻金を受け取ることもできますし、保険金の支払いを満期まで継続することで満期保険金を受け取ることもできます。

遺言書を見つけたら(遺言書の検認)

遺言書を見つけたら、封印がしてある場合は勝手に開封しないで、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで開封しなければならないことになっています。

この場合、遠隔地やその他の事情でその全員または一部が立会いに出席できないとしても、開封の手続きをすることができます。

家庭裁判所による遺言書の検認とは、家庭裁判所が遺言の存在と内容を認定するための手続きのことをいいます。

この手続きは、遺言書が遺言者の作成によるものであることを確認するもので、偽造や変造を防ぎ保存を確実なものにすることができます。

遺言書の保管者と、遺言書を発見した相続人は遺言書の検認を相続開始後速やかに請求しなければなりません。

申立に必要な書類は、申立人の戸籍謄本、遺言者の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、受遺者の戸籍謄本などです。

代襲相続人とは

相続が始まるときに本来は相続人になるはずの子供や兄弟姉妹がすでに亡くなっている、相続人として廃除されている、あるいは欠格事由があり相続する視覚がない、というような場合は、その者の子が相続人になります。

これを代襲相続といい、このような形で相続人になる人を代襲相続人といいます。

ただし、兄弟姉妹の代襲相続人はその子限りです。

代襲相続人も含めて、相続権を持つ血族がまったくいない場合は、配偶者が単独で全財産を継ぎます。

逆に、配偶者がいないときは、相続順位に従って、その順位の血族が全部相続することになります。

また、妻には夫の相続の代襲相続権がありません。

夫にも妻の相続の代襲相続権がありません。

血の濃さを重視する法定相続

相続する血族が数人いた場合は、その数人の相続分の配分割合は原則として均等・平等です。

同じ子であっても、非摘出子(婚姻関係にない男女の間に生まれた子)の相続分は、嫡出子(婚姻関係にある男女の間に生まれた子)の半分になります。

また、結婚した相手の連れ後であっても養子縁組していなければその子供は相続人にはなれません。

一方、離婚した場合でも、親と子の間に血のつながりがありますから、たとえ離婚した相手に親権があったとしてもその子供は相続人になります。

兄弟姉妹が相続人となる場合で父母の一方のみを同じくする半血の兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする全血の兄弟姉妹の場合の半分となります。

相続人の相続分は血の濃さが尊重される形になっているといえるでしょう。

推定相続人とは

遺言作成時に、推定相続人という言葉がよく使われます。推定相続人とは、その段階において、最順位に第一順位となれる相続人のことをいいます。

その時点で第一順位にいるというわけですから、相続が具体的に期待できる地位のことをいうことになります。

推定相続人は、遺言の第一の利害関係人となるわけですから、公正証書遺言作成時の立会人としての証人連絡を持たず、単なる立会人となることもできません。

しかし、推定相続人という言葉は、相続開始時以前の遺言時の時点を基準とした不確定なものにすぎません。

したがって、推定相続人となったからといって、最終的に相続分が有利になったり、不利になったりするということにはなりません。

なお、第一順位が遺産を受けるのを「相続」といい、この場合の第二、第三の順位の相続人は「遺贈を受ける」ということになります。

そうして相続を原因とする場合は、相続人の意思にかかる遺産分割によることを除いて、登記なくして対抗(主張)することができることになります。

「遺贈」の場合には、特定承継となりますから、登記の先後が対抗要件となります。

法定相続の不都合さと遺言の有用性

法定相続の割合で分割相続が行われるのは遺言がない場合です。

この遺産分割の際、肝心の被相続人はすでに亡くなっていますから、死者の意思や家族関係の実体を反映するには限界があります。

法定相続においては、被相続人の財産の維持や増加に寄与した人に対して相続分を上乗せする寄与分の制度がありますが、寄与分が認められる要件が厳しいため、寄与分で一部修正の機会が与えられたとしても、法定相続制度はもともと子供が平等に存在するということを大前提として相続分を均等にしようとする制度ですから、基本的には生まれた時を基準とする機械的・固定的なものなのです。

しかし、長い間、家族として歩んでいくと、被相続人と相続人との間は、その配慮や介護の仕方によっては、人間関係の親密さに濃淡が出てくるのは自然で当然なことでしょう。

これを法定相続という画一的形式的な平等で処理しようとすると、かえって実情に合わず、相続問題がこじれて、しまいには被相続人の死を境に家族関係が崩壊してしまうケースもあるわけです。

例えば、子のいない老夫婦が一つになって一生を生き抜いてきたとします。

そこへ突然の夫の死。これによって当然の法定相続が始まると、夫の兄弟たちは、妻の長年の苦労や夫への介護のいたわりの言葉をかけるどころか、わがもの顔で相続権を主張してくるのです。老妻にとっては土足で財産を踏みにじられるのも一緒です。

このように老々同居となった今、家族関係の発展や成長に合わせることなく、生まれたときから順位と割合が決まってしまっている法定相続をあてはめていくことは極めて不合理な場合もあることです。

ですから、この不都合性を考慮し、家族の実態を見極め、それぞれの家族の形にマッチした公平で平等な相続を実現させるように配慮することは年輩者の責務であり、それを反映させた遺言を書き残す英断を下すことは残された余生の重要な仕事の一つだといえるでしょう。

そうすることによって、家族の実態・実情に合わせた遺言を残しておくことになり、このことは家族関係のさらなる悪化を防止し、遺産をめぐる紛争を微風にとどまらせる有用性も出てくるのです。

遺留分

しかし、たとえ遺言であっても何から何まで自由にできるというものではありません。

遺言にも限界はあります。それが遺留分というものです。

そもそも相続というものが存在する理由の一つは遺族の生活保障です。遺言といえども相続の持つこの存在理由を無視することはできません。

法律は、配偶者や第一順位の子はもちろん、第二順位の相続人である直系尊属までに遺留分という形で最低限度の相続分を保障しています。

ただし、第三順位の兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺言で遺留分を無視したとしても、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ってから1年以内に遺留分が主張されれば直ちに効力を生じてしまうため、それを無視することはできず、阻止することはできません。

そこで、遺言をする際に、例えば遺留分を配慮した遺言をしたり、遺言の最後に気になる相続人宛に心を込めて遺留分減殺請求を断念させる「付言」をし、死者の言葉を尊重させるように心がけることも大切になります。

相続人廃除とは

たとえ、残された者の生活保障が相続の趣旨だとはいっても遺留分すら渡したくない相手がいる場合もあるでしょう。

そのような場合に利用されるのが相続人廃除という制度です。

これは、遺言者に暴力をふるったり侮蔑や虐待してきた者を相続人から廃除し、相続権を奪おうとするものです。

この制度は、被相続人の生命を侵害する犯罪を犯し、処分された者等を相続欠格者として法律上当然に相続人にさせない相続欠格と並び相続人の地位(ただし相続権のみ)を剥奪してしまおうという強い制度です。

この相続人廃除は生前中でもできますが、遺言でもできます。

しかし、これも「相続人から廃除したい」という遺言者だけの意向では足りず、そのための要件と家庭裁判所での審判が必要です。

要件というのは、遺言者に対しての虐待、重大な侮蔑、著しい非行です。

この有無について申し立てを待って家庭裁判所が審理することになります。

そうはいっても相続人の廃除を裁判所はそう簡単には認めません。

仮に認められたとしても、相続廃除者の子は相続権を剥奪されることはなく、代襲相続人として、相続排除者の相続権を引き継ぎ、この代襲相続人が遺留分減殺請求権をもつことになってしまいます。

それをも避けたい時には公正証書遺言で財産を移転し、遺留分減殺請求権の事項完成を待つしかないのです。

遺言を理解する能力

遺言は均分の法定相続とは違う相続を目指すときに非常に有効なものであり、民法上15歳以上であれば遺言することができるとされています。

しかし、遺言は一般に高齢になってもうろくを自覚するころから残すか否かを考え出すものです。

その頃には高齢者ならではの様々な力の衰えも出始めているのが通常でしょう。

末期の脳血管痴呆症や第三期のアルツハイマー痴呆症などにより自分の行動を理解できない(見当識もない)のでは遺言をすることすらできないでしょう。

したがって、自筆の遺言をも含めて遺言をするためにはある程度明確な真意を表すとともに、以下のようないろいろな能力と労力が必要になります。

印鑑を押す能力、自分の名前で署名する能力、文章を全文書く能力、口で喋る能力、人の言うことを聞ける能力、書面を目で読むことができる能力、遺言の意味を理解する能力、その結果がどうなるのかを正しく見極める能力、仮にこれらの一つがなくても、代わりをすることのできる能力などです。

遺言は、自分の財産を処分したり、身辺整理をするためのものですが、その真意を整理し、結果がどうなるかを判断し決断し、それを口に出して喋ったり、手話等の通訳人により喋ったり、自分で書いたり、人に書いてもらったり、公証人に作成してもらったりして、本人自身の言葉として残さなければならないものです。

この言葉として残されたものが遺言書であって、真意による意思表示の効果として、死後、法律上の効果が出てくるわけです。

一番大事なことは、遺言をするときに「財産を人にあげるということを理解する能力」と「その結果がどうなるかを見極める判断能力」つまり跡継ぎを理解する力があるかどうかということになります。

この精神能力もなしに遺言をしても、その遺言は裁判で無効であるということになり、法廷相続に戻ってしまいます。

さらに、その手段として、それを書面に正しく表すための能力として、口で喋ったり、手で書いたり伝えたりする能力がいるということになります。

これがないと遺言自体表せないということになります。

公正証書遺言作成の現場では、真意に基づくものかとともに遺言者にそのような能力があるかどうかを、遺言者と実際に会っている際に公証人が第一次的に判断していきます。

能力の点については公証人は医者ではありませんから、医学的な判断はできません。

しかし、財産の処分や老人が生きてこれまでに蓄えてきた重要な財産を手放すことですから、皆が皆用心深く警戒し、心を堅く閉ざしており、納得できなければ拒否の態度や話をそらすなどして示してきます。

そこで、例えばしっかりとした手つきでハンコを押しているかどうか、自分の名前を難しい字でも堂々と書いているかなどは遺言者の積極的な態度といえますから、これらが全体として遺言の意味を理解してなされているとして能力の有無の判断材料となるものです。

ただ、このような能力と同じくらい必要なのは遺言を残そうとする労力です。

遺言の作成は本当に神経を使うものです。悩み、苦しみ、そして決断するという過程の中で、配偶者や子供など残される家族との葛藤・調整が予想もしないほど重く、のしかかることもあります。

そのような中で遺言を作成するという労力を惜しまないことも自分の余生と残される遺族のために大切なことなのです。

遺贈と相続

遺贈は、相続人に対してだけでなく、相続権のない人に対しても行うことのできる無償譲与で、相続のように被相続人から死亡と同時に当然に移転するのではなく、意思表示によって譲渡されるものなのです。

したがって、意思表示の効果によって財産が譲与される以上、遺言のみによって当然に対抗力を有するものではなく、登記が対抗要件として必要になります。

これに対し、相続が原因の場合、法律上当然に財産が相続人に移転したわけですから、遺産分割のように相続人の意思表示にかかる場合を除いて、登記は不要で登記なくして対抗ができます。

また、登記手続きも相続人から単独で相続登記ができます。

遺贈の場合は、受遺者と相続人の代理人である遺言執行者の双方の共同申請となり、権利証も必要になります。

法律上の形式に反する遺言の効力

ビデオテープレコーダーを使った遺言は、遺言作成の要件の1つである本人の署名押印という点に当てはまらないので、法的な効力を持つ遺言とはなりません。

障害のある人がする遺言は、従来、公正証書遺言は遺言者から公証人への口述、公証人による読み聞かせが厳格に要求されていましたので、障害者には不利な制度でした。

最近の民法改正により、遺言者の聴覚、言語機能に障害がある場合には、手話通訳又は筆談で公証人に伝えること、公証人による内容の確認は通訳か閲覧の方法ですることが認められるようになりました。

遺言書を無理に書かせた場合は、無効となります。無理に書かせた者が相続人・受贈者であると、遺言が無効になるだけでなく書かせた者は相続の欠格となり、相続・受贈の権利を失うことになります。

遺言を取り消すには

遺言を取り消したい時は、遺言によって行います。

遺言を取り消すことができるのは、遺言書だけです。

又、日付の新しい遺言は古い遺言の優先しますので、わざわざ取り消す必要はありません。

遺言者が故意に遺言書を破棄したときも遺言を取り消したことになります。

前の遺言と後の遺言が抵触する時は、前の遺言と異なる内容の遺言書を作れば、前の遺言は取り消したものとなります。

遺言と遺言後の行為が抵触する時は、別の遺言書を書かなくても、前の遺言の内容で対象になっている物を売ってしまえば、遺言を取り消したものとなります。

遺言の取消

遺言は、いつでも方式に従って、遺言の全部又は一部を取り消すことが出来ます。

方式に従ってさえいれば、取り消される遺言の方式と同じでなくてもよいとされています。

遺言の取り取消は、遺言者の死亡と同時に効力が発生します。

前の遺言と後の遺言が抵触しているとき、又は遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触しているとき、遺言者が故意に遺言書を破棄したとき、遺贈の目的物を故意に破棄したときはその遺言は取り消されたものとみなされます。

祖先の祭祀主宰者の指定

系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続財産とは別に祖先の祭祀を主宰すべき人が継承することになっています。

この継承者は被相続人の指定があればその人が、なければ慣習により、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が承継者を定めることになっています。

被相続人が祭祀主宰者を指定する場合は、その方法には制限はありません。

生前に指定しても、遺言によって指定してもよいとされています。

生命保険金の受取人の指定・変更

生命保険契約において、保険金受取人の指定、変更を留保している場合があります。

この場合は、保険契約者が死亡するまでの間、契約者は保険金受取人を指定又は変更することができます。

また、この指定又は変更は遺言によって行ってもよいとされています。

遺言の効力は

遺言は法定相続よりも優先されますが、遺言の全てが法的な強制力をもつものではなく、法的な強制力をもつものは10項目だけとなっています。

1・財産処分

法定相続人がいる場合は、相続人の遺留分を侵害できないことになっていますが、遺産を相続人以外の人にすべて遺贈したり、寄付したりという遺言も可能です。一部が減殺されることはあっても、無効にはなりません。

2・相続人の廃除または廃除の取り消し

遺言で廃除の請求を行うことも出来ますし、廃除を取り消すこともできます。但し、認められない廃除理由もあります。

3・認知

内縁の妻などとの子との間に、法律上の親子関係を創設することです。

4・後見人及び貢後見監督人の指定

子が未成年者の場合、被相続人が信頼している人を後見人に指定できます。ただし、指定できるのは最後に親権を行う人だけです。

5・相続分の指定または指定の委託

相続人の法定相続分は民法で決められていますが、遺言によって変更が可能です。ただし、遺留分の規定に反することは出来ません。

6・遺産分割方法の指定または指定の委託

遺産分割方法について、遺言で指定しておくことができます。分割方法の指定を第三者に委託することもできます。

7・遺産分割の禁止

5年以内に限って遺産分割を禁止することができます。

8・相続人相互の担保責任の指定

法定の担保責任を遺言によって変更することができます。

9・遺言執行者の指定または指定の委託

遺言の内容を確実に実行するために遺言によって遺言執行者の指定ができます。又その指定を第三者に委託することもできます。

10・減殺方法の指定

減殺をどのように行うかについて被相続人が決めておくことができます。

遺産の全部を相続させる旨の遺言

遺産の全部を特定の相続人にすべて相続させる、という内容の遺言を残すこともできます。

例えば妻と2人の息子をもつ男性が、2人の息子はそれぞれ独り立ちして立派にやっており、ひとり残される妻の生活が心配だから、すべての財産を妻に相続させたいと思った場合などが考えられるでしょう。

ただし、他の相続人の中に遺留分を有する法定相続人(配偶者、子、直系尊属等)がいる場合には、遺留分減殺請求をすることができます。

遺留分減殺請求権を行使するかどうかは遺留分権利者の意思にゆだねられており、もし権利を行使した時は、すべての遺産を特定の相続人に相続させることにはなりません。

また、遺言書に単に「すべての財産を○○○に相続させる」と記載しても有効となりますが、出来れば不動産や預貯金など、具体的に記載したうえで、それらの財産を含む遺産すべてを相続させる、と記載した方がいいでしょう。

相続人にとっても具体的にどのような遺産があるのか分かりやすいですし、相続登記や預貯金の払い戻し、名義変更等の手続きに漏れが出にくくなります。

遺言による保険金受取人の変更

平成22年に施行された保険法の44条1項および73条1項にて、「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。」と規定されています。

一般的に、生命保険契約というのは長期にわたる継続的な契約であることがほとんどです。そのため、長い契約期間の間に変わった事情に応じて保険金受取人を変更できることが、保険契約者の意思の尊重につながるからです。

保険契約者と被保険者が異なる場合、保険金受取人の変更には、被保険者の同意が必要となります。

なお、ここで注意すべき点としては、遺言による保険金受取人の変更が認められるのは、保険法が施行された平成22年4月1日以後に締結された保険契約についてのみ適用されます。施行日前に締結された保険契約には適用されませんので、注意が必要です。

但し、既存契約であっても、保険法の施行日以後に契約が更新された場合は、その契約については保険法の適用があると解されています。

また、保険法の44条2項および72条2項にて、保険金受取人を遺言によって変更した場合、遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人はその旨を保険者に通知する必要があることを定めています。これは、保険者の二重払いのリスクを防止するためです。

仮に、保険金受取人が保険事故の発生よりも前に死亡し、その後、保険契約者が改めて保険金受取人の指定・変更をする前に保険事故が発生した場合、だれが保険金受取人となるのかという問題が発生します。このような場合、相続人全員が保険金受取人となります。

このとき、各相続人は法定相続分の割合によってではなく、平等の割合で保険給付請求権を取得することになります。

一方で、死亡保険金の受取人が被保険者の相続人と指定されている場合は、各相続人は法定相続分の割合によって保険給付請求権を取得します。

生命保険契約によっては

生命保険契約によっては、遺産分割協議の対象となる場合がありますのでご注意ください。

例えば、契約者=夫、被保険者=妻、死亡保険金受取人=夫 という契約の場合、夫が亡くなった時は、この生命保険契約は、遺産分割協議の対象となります。

契約者が亡くなりましたので、契約者変更を妻とする場合、法定相続人のすべてが納得している証明書、又は遺産分割協議書が必要となります。

保険金額が大きく、払込保険料も長期に渡って払われている場合は、解約した場合も多額な金額となりますので、相続人の間でもめること必至です。

そのようなことがないように、遺言書の中で生命保険契約を誰に相続させるかを決めておく必要があります。

もしくは、そのような生命保険契約を結ばず、契約者=妻、被保険者=妻、死亡保険金受取人=夫 という形態の保険契約を結ぶように提案すべきであったと思います。


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