相続・遺言の豆知識

遺言信託について

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.06.04

遺言信託とは

遺言により設定する信託のことを、遺言信託といいます。

これは平成19年9月30日に施行された新しい信託法によって定められています。

遺言信託とは、簡単に言うと、遺言者の財産を受託者に管理・運用・処分してもらう制度のことをいいます。遺言信託は、遺言者が死亡した時から効力が生じます。

例えば、遺言者が高齢の男性、受益者がその妻という設定で考えてみましょう。

信託を行うことで、遺言者の預貯金などの金融資産を信託財産として管理・運用してもらい、妻に生活資金を給付させることができます。

そうすることで、遺言者の死後も、妻が安心して老後の生活を送ることができるようになります。

多額の金融資産を高齢の妻に相続させ、管理させるのは大変です。

万一、妻が認知症になったり、オレオレ詐欺に騙されて遺産を失ったりするリスクを回避するためにも、遺言信託は役立ちます。

受益者に対し、毎月定額を月末までに生活費として手渡すことと、受益者の入院費用、療養費、介護費用、租税公課等に充てるため必要な金額をその都度支払うことと定めます。

信託終了時に残余財産がある場合、帰属権利者を誰にするのか決めておくといいでしょう。

また、場合によっては信託監督人を遺言信託で定めることがあります。信託監督人は、受益者のために受託者を監視、監督します。

委託者とは   

信託行為の当事者として、自分の所有するお金や土地、建物といった財産を信託財産として拠出し、信託の目的・内容を設定する人を委託者と言います。

遺言信託の場合、遺言者が委託者となります。遺言信託をする場合には、遺言能力があるということが委託者となるために必要な条件となります。

受益者の監督は原則として受益者に委ねられていますが、委託者は受託者等の選任・解任に関する権利を有しています。

委託者が死亡したときは原則として、相続により相続人に委託者の地位が継承されます。しかし遺言信託の場合は、信託行為に別段の定めがない限り、委託者の地位は相続人に継承されません。

受託者とは   

信託を受け、信託行為の定めに従って財産の管理・処分・その他の信託の目的達成のために必要な行為をする人を、「受託者」といいます。未成年者や成年被後見人、および被保佐人は受託者になることができません。

福祉型の遺言信託の場合は、身近にいる信頼のおける親族を受託者として指定するケースが多くなっています。

遺言者は周囲を見渡してみて、自分に子どもがいる場合にはまずは子どもを受託者として考える方が多いようです。

もし自分の子どもが受託者として信託財産を管理・処分するのに向いていないと思われた場合は、視野を広げて甥や姪、場合によっては孫等の親族に適任者がいないかどうか探してみましょう。

それでも親族の中に適任者がいないという場合には、信託銀行の金融機関等を受託者とすることも可能です。

ただしその場合は相応の費用や報酬の負担も考える必要が出てきます。

親族であれば報酬は無償とすることも可能になりますので、できれば親族の中から委託者を見つけたいところですね。

そのため、委託者としたい親族の事務処理能力に多少問題があるという場合には、信託監督人をおくことでカバーしていくことも考えましょう。

遺言によって信託がされた場合、相続人・遺言執行者・受益者に指定された人は、受託者に指定された人に対し、相当の期間を定めて、信託を引き受けるのかどうか確答するように催告することができます。

遺言にて受託者に指定された人はその催告を受けた場合、相当の期間内に確答しなければ、信託を引き受けなかったものとみなされます。

また、遺言によって信託がされたが、遺言の中で受託者の指定がない場合や、受託者に指定された人が信託を引き受けない場合には、利害関係人の申立てによって裁判所が受託者を選任することができます。

ただしこれには時間と費用がかかりますので、遺言信託をする場合には事前に、受託者に指定したい人に対して受諾してくれるかどうかを確認しておくといいでしょう。また、その人が遺言者よりも先に亡くなってしまう場合もありますので、予備の人を探しておくことも大切です。

受託者の義務

受託者は、委託法上、次のような義務を負います。

①信託事務遂行義務

②善管注意義務

③忠実義務

④公平義務

⑤信託事務の委託における第三者の選任及び監督に関する義務

⑥分別管理義務

⑦帳簿等の作成、報告、保存義務

新しい信託法は、受託者は次に掲げる場合には、信託事務の処理を第三者に委託することができるとしました。

これにより、信託事務の処理を第三者に委託することが出来る場合が拡がりました。

①信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき

②信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき

③信託行為に信託事務の処理を第三者に痛くしてはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき

受託者が亡くなった場合

受託者が亡くなった場合、当然ながら受託者としての任務は終了します。

しかし信託は終了しません。

この場合、受託者に相続人が居る場合であってもその相続人が受託者になるわけではなく、新たな受託者を選任し、選任された新しい受託者が信託に関する権利義務を承継し、信託事務を引き継ぎます。

新しい受託者は、信託行為に定めがある場合はそれに従って選任されますのでスムーズです。定めがない場合は、委託者と受益者との合意によって選任するか、利害関係人の申立てにより、裁判所が選任します。

受益者とは  

信託によって生じる経済的な利益を受ける権利(受益権)をもつ人を「受益者」といいます。

信託行為の定めにより受益者として指定された人は原則として、利益を受けたいという意思表示をしなくても当然に受益権を取得します。そのため、自分が受益者となっていることに気付かない人もいますので、受託者はその旨を遅滞なく受益者に対して通知しなければならないと定められています。

また、受益者を変更する権利が行使されたことにより受益者であった人が受益権を失った場合は、受託者はその旨を遅滞なく通知しなければなりません。

受益権の放棄

受益者は受益権を放棄することができことが、信託法にて以下のように定められています。

①受益者は、信託行為の当事者である場合を除き、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。

②受益者は、受益権の放棄の意思表示をしたときは、当初から受益権を有していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

受益者は受益権を放棄した場合、その放棄の時点までに受けた利益を不得利得として返還する必要があります。

受託者連続型(跡継ぎ遺贈型)信託 

受益者が死亡した場合、他の者が新たに受益者を取得するように定めた信託を、受益者連続型(跡継ぎ遺贈型)信託といいます。

例えば、認知症になった妻のために、夫が主な資産を信託財産として、自分の生存中は自分を受益者とし、自分が死亡した時点での受益者を妻とし、妻が死亡した時点での受益者を長女と指定するケースなどがこれにあたります。

このように受益者となる者に順位をつけ、受益者が死亡すると次の順位の受益者が順次受益者となる仕組みになっています。

受益者連続型信託は、遺言によってもできますし、契約によってもできます。

また、現時点で胎児であったり、将来生まれてくるであろう者であっても、特定可能であれば差し支えなく受益者として指定することができます。

信託の有効期間は設定の時から30年を経過した時以後に現存している受益者が受益権を取得した場合に、その受益者が死亡するまで又は受益権が消滅するまでとなっています。

これは、遺言者の孫の世代まで受益者となれるように定められたものです。

なお、受益者連続型(跡継ぎ遺贈型)信託の場合であっても、受益権は遺留分減殺請求権の対象となります。


FP松井宝史

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