相続・遺言の豆知識

遺産分割協議とは

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.04.25

遺産分割協議

両親のどちらかが先に亡くなり、残った親と子供が相続人のときには、比較的もめずに遺産分割協議が成立します。

子供は、親の老後の生活に配慮する気持ちがあります。

また、相続税の軽減規定のうち、亡くなった日から10ヶ月以内に遺産分割協議を成立させて、申告書を提出しないと適用できない「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」の規定の影響も大きいといえます。

特に、親が相続した財産に「配偶者の税額軽減」が使えないとなると、税金がほぼ倍になります。

この規定が、最終的には全員合意に至るための重要な役割を果たしています。

相続税のかからない財産しかない家庭の場合、この規定は役に立ちません。

さらに、両親が共に亡くなり、子供たちだけになると、親という心理的な重しがなくなります。

お互いの利害関係が真っ向から対立し、歯止めがきかなくなるのです。

また、生前に他の兄弟だけが、親から多額の援助を受けている場合、亡くなったときに残っている財産だけを均等に分けようと言われたら、不公平だと思います。

相続財産をすべて現金にして、相続人同士で1円単位まできっちり分けたとしても、完全に公平にはなりません。

遺産分割に際し、生前の贈与を考慮する「特別受益」とよばれる制度があるからです。

遺産分割

亡くなった人の財産を分ける話し合いは、「遺産分割協議」とよばれ、相続人全員の合意が必要です。

通常、民法に定められている法定相続分をもとに行います。

話し合いで遺産分割ができなければ、家庭裁判所に「調停」を申立て、裁判所で第三者を交えて話し合います。

調停が成立しなかった場合には、裁判所が判断を下す「審判」に移行します。審判の結果に不服があれば、高等裁判所に「不服申立て」ができます。

民法上は、いつまでに遺産分割をしなければならないという期限はありません。税法上は、相続税の軽減規定を受けるための期限が決められています。

仮に適用できなかったとしても、申告期限から3年以内に協議がまとまれば、納めた税金の還付が受けられますが、いったんは全額納付する必要があります。

話し合いではまとまらず、裁判所が関与しているケースのほとんどが、実は相続税には関係の無い過程です。

相続税の申告期限も関係ないので、いつまでもめていてもかまわないからです。

遺産分割について

特別受益

相続人間の公平のため、亡くなった人から生前に財産をもらった相続人がいるとき、遺産分割の際にはこれを相続財産に合算し、トータルで相続分を計算します。

次の①、②、③が特別受益に該当します。

① 結婚や養子縁組のための贈与

持参金、嫁入り道具、支度金
(結納金や挙式費用はよほど高額でない限り含まれません)

② 生計の資本としての贈与

住宅の購入資金、不動産の贈与、高額な学費、事業の資金援助

③ 死亡退職金と生命保険

また、相続のときに遺言でもらった財産も遺産分割前の相続財産の先取りなので、特別受益とされています。

相続人同士がお互いの生前贈与をすべて把握していることも少ないと思います。

相続税の申告のために必要な場合には、税務署に請求して他の兄弟への生前贈与の金額を確認できることがありますが、相続税には関係のない過程ではそれも出来ません。

贈与を受けた財産を売却したり使ってしまったりして相続のときに残っていない場合でも現物があるものとして計算します。

金額は、贈与時の時価ではなく、相続時の時価に引き直し、他の相続財産と同じベースにします。

相続財産の価格

財産を法定相続分通りにきっちり公平に分けたくても、そもそもその財産はいくらなのかが問題です。

相続税を申告するための財産の価格は、相続税評価額とよばれ評価方法が決められています。

しかし、相続税評価額は、通常「時価」とよばれている第三者で売買される金額とは違うのです。

特に大きな違いがあるのは不動産です。

大まかに言えば、土地は時価の8割、建物は時価の7割が相続税評価額になります。

人に貸している場合にはさらに評価額は下がります。

不動産をもらえば相続税評価額より高い時価で売ることができるので、その分特かというと、売るときにはさらに所得税という別の税金がかかるので、そうともいえないのです。

もともと土地の金額は「一物四価」とよばれ、一つの土地について「時価」「公示地価」「路線価」「固定資産税評価額」という4つの異なった価格があるといわれています。

時価と公示地価を100とすると、路線価は80、固定資産税評価額は70くらいです。

目的により金額が違うので、どれが正しくどれが正しくないとはいえません。

相続人の配偶者

兄弟は、子供のことから一緒に育ってきた血のつながった存在です。

遺産分割の過程でもめたとしても、相続する財産に多少の多寡があっても最終的には合意できることもあります。

しかし相続人の配偶者は違います。相続の問題は、なかなか友人や知人には相談できません。

そのため、おもに一番身近な存在である自分の配偶者が相談相手になります。

本来、配偶者は第三者なのですが気持ちは当事者と同じかそれ以上です。

相続でもらえるお金は、厳しい家計にとっては棚からぼたもち、まさに千載一遇のチャンスです。

生活費、住宅ローン、教育費など、たとえ生活に余裕があっても1円でも多く財産をもらえるほうがいいに決まっているkらです。

そのため、配偶者が横から口をはさんだり、不満を言ったりして、まとまる話もまとまらなくなることがあります。

相続人の配偶者の方は、あくまで部外者であると心得てください。

持戻しの免除記載の遺言書

なぜ遺言書が重要かというと、相続税に関係の無い家庭では、相続でのもめごとのほとんどが財産の分け方についてだからです。

遺言書があれば、財産を分けるための遺産分割協議が不要です。

もめごとの原因のほとんどが解消できるか、またはもめごとを可能な限り小さくすることができます。

但し遺言書の内容が、個別の財産ごとの取得者を指定した特定遺贈形式ではなく、相続分の割合を指定した包括遺贈形式の場合は遺産分割協議が必要になります。

また、特別受益の問題があると、話し合いがより複雑になります。

それを避ける為に遺言書では、財産の取得者を定め、さらに念のため特別受益の持戻しの免除についても記載しておくようにします。

例えば、遺言書に「これまでに相続人全員に行った生前贈与による特別受益に持戻しについてはすべて免除する」と記載しておけば、生前に行った贈与を特別受益として相続分の計算に含める必要がなくなります。

特別受益と遺留分減殺請求との関係

遺言書では、財産を誰にどう残すかは自由に決められますし、生前贈与を持戻しの計算に含めないよう「特別受益の持戻しの免除」についても記載しておくことができます。

しかし、財産の一部を相続人に残しておく「遺留分」へ配慮する必要があります。

実は遺留分を計算する際のもとになる財産は、相続財産だけではないからです。

そのため特別受益の持戻しの免除は、生前贈与の金額が他の相続人の遺留分の侵害しているときには行うことができません。

遺留分を侵害された相続人は、遺留分の減殺請求を行い、侵害された分を取り戻すことが可能です。

FP松井宝史

FP松井宝史

電話でご相談ください

無料メール相談