相続・遺言の豆知識

遺言書がないと困るパターン

文責 FP2級技能士 松井 宝史 2021.06.09

遺言書がないと困るパターンをいくつがあげてみます。

ご参照いただければ幸いです。

目次

親と同居している場合

親が再婚していた場合

妻に全財産を遺したいとき

兄弟姉妹が海外で暮らしている場合

農業を営んでいる方の場合

親の介護をしていた人 の場合

アパート等を持っている方の場合

年齢差の大きい子どもがいるとき

親が認知症の場合

生命保険の額が大きいとき

結婚した相手に連れ子がいる場合

相続させる不動産と預金の価格差がある場合

親と同居している場合

親と同居していて、兄弟姉妹がいるという方は、相続の際に困る場合があります。

例えば、AさんとBさんという兄弟がいたとします。

長男のAさんは結婚当初から実家で両親と同居しており、父親が亡くなった後は母親と、自分の妻や子供たちと一緒に暮らしていました。

Bさんは結婚して近所に家を建て、自分の妻や子供たちと一緒に暮らしています。

さて、Aさんと同居していた母親が亡くなりました。

母親が残した財産は、実家の土地・建物の財産が1500万円と、預貯金が500万円の合計2000万円でした。

また、母親は遺言書を残していませんでした。

このとき、相続人となるのはAさんとBさんの2人ですので、法律により相続割合は2分の1ずつとなります。

母親の残した財産は合計2000万円でしたので、AさんとBさんは各々1000万円ずつ相続することになります。

ですが、母親の残した預貯金は500万円しかありません。これは困ったことになりました。

Aさんが現在住んでいる家に住み続けるためには、預貯金の500万円に加え、自分で現金500万円を用意してBさんに渡さなければならないのです。

ですが仮に、母親が生前に遺言書で「長男Aに土地・建物を、次男Bに預貯金500万円を相続させる。」と残していたとしましょう。

その場合、遺言に従って相続をすることになるので、AさんとBさんでもめることはありません。

親が再婚していた場合

A男さんの父親のB夫さんは、A男さんの母親と結婚する前にも一度、結婚をしていたことがありました。

前妻との間には男の子が一人おり、その子の親権は前妻が獲得しました。

離婚後しばらくしてB夫さんは再婚し、後妻(A男さんの母親)との間にA男さんが生まれました。

今年になってB夫さんは、がんで急に亡くなりました。

遺言書は残されていません。

A男さんと母親は、相続人は自分たち2人だけだと思い込み、B夫さんの銀行口座の名義変更をするために銀行の窓口へ出かけました。

するとそこで担当者に、「もう一人相続人がいらっしゃるようですので、ご確認ください。」と言われ、エッと驚いたのです。

その後、戸籍を確認したところ、B夫さんの前妻との間に子どもが一人いることが判明しました。

A男さんも、後妻である母親も、前妻との間に子どもがいることはB夫さんから聞いていませんでした。

当然、A男さんも母親もその人に会ったこともありませんし、どこに住んでいるのかも知りません。

A男さんは父親の戸籍を調べたり、B夫さんの姉である伯母に聞いたりして前妻の子どもの住所を何とか探し当てました。

そして、「相続の話し合いに協力してください」という内容の手紙を出しましたが、何の返事もありません。

今回のケースではB夫さんが遺言書を残していないため、相続のためには相続人全員で話し合いを行い、書類に押印してもらう必要があります。

A男さんも母親も、B夫さんの銀行の預貯金の名義変更などもできず、困り果ててしまいました。

A男さんのケースのように、親が再婚していて前妻に子どもがいるような場合は、ぜひとも親に公正証書遺言を残しておいてもらいましょう。

前妻との間に子どもがいることを隠しておきたがる親もいるかもしれませんが、それでは相続の際に子どもたちが困ることになります。

親が離婚経験者である場合には、親の気持ちも尊重しつつ、前妻との間に子どもがいないかどうか確認しておきましょう。

妻に全財産を遺したいとき

既婚者にとって、自分の死後の財産のゆくえは重大です。

特に男性の場合、自分の死後の妻子の生活が気にかかりますね。

子供がいなかったり、いても既に独立している場合はもっぱら妻の生活が心配になるのではないでしょうか。

日常生活があわただしいと、つい財産について考えるのを後回しにしてしまいがちです。

また、「財産は妻の手元に残るに決まっているし、特に何もしなくてもいいだろう」と楽観的に考えている人も少なくないでしょう。

本当に何もしないままで大丈夫なのでしょうか。

実は、必ず全財産が妻の手元に残るとは限らないのです。

子供がいる人もいない人も、妻の生活を安定したものにさせるためにも、遺言書を残しておくことがよいといえるでしょう。

●子供がいないケース

亡くなった方の父母、祖父母、兄弟姉妹、甥姪などが生きている場合には、相続権が生じます。

その人たち(相続人)には法律で相続分が認められています。

妻が全財産を相続することに、相続人が異議を唱えると、妻が全財産を相続することができない可能性が生じてきます。

●子供がいるケース

法律によると、財産の1/2を妻が、残りを子供が均等に相続することになっています。

1/2の財産では妻の今後の生活が不安であるという場合には、妻に全財産(あるいは多めに)相続できるようにしたほうがいいでしょう。

★具体的にどうしたらよいか

全財産(自宅などの不動産を含める)を妻に相続させることを明記した遺言書を作成しましょう。

全財産でなくともよい場合は、「妻に自宅を、子供に○○を」など、具体的に明記しましょう。

子供にも財産を相続させる条件として妻の老後の面倒を見てもらいたい場合なども、その旨をできるだけ具体的に明記しましょう。

兄弟姉妹が海外で暮らしている場合

A男さんには、海外で暮らすB男さんという弟がいます。

B男さんは海外で事業を起こし成功しており、多忙なためになかなか日本には帰ってきません。

今年の春に父親が亡くなりましたが、B男さんは仕事が立て込み、父親の葬儀に列席することができませんでした。

その後B男さんは仕事の段取りを付けて、何とか父親の法事に出席することができました。

しかし法事が終わるとすぐに海外に戻ってしまい、父親の遺産分けの話も満足にできる状態ではありませんでした。

そんなわけで父親の遺産分けの話し合いは一向に進みません。

A男さんは何度も弟のB男さんと連絡を取ろうと試みるのですが、多忙なB男さんとは満足な連絡も取れない状況が続いています。

こんな様子で一体いつになったら遺産分けができるのかと、A男さんと母親はやきもきしています。

このように、海外に住んでいる等の理由ですぐに会えない兄弟姉妹がいる場合、親が亡くなったときの遺産分けの話し合いが長期化してしまうおそれがあります。

また、遺産分けの話し合いがまとまったとしても、海外で生活している人には「印鑑証明書」がありません。

その代わりになるのが「署名証明」という証明書ですが、これを用意するためには日本大使館または領事館に足を運ぶ必要があり、ここでもまた時間や手間がかかってしまいます。

海外で生活している相続人が居るような場合は、ぜひ親の遺言を残しておいてもらいましょう。

そうすれば相続の手続きはスムーズに進みます。

農業を営んでいる方の場合

農業を営んでいた親が亡くなった場合で、子どもが農業を継ぐ意思が無いときはどうなるでしょうか。

農地を売却して手放したい場合、農地法により厳しい制限が設けられており、売買が容易ではないのが現状です。

法定相続人が農地を相続することは可能ですが、相続人が農業を続ける意思がなく、農地を売却したいという場合には農地委員会の許可等が必要になります。

そのため、売却に時間がかかりますし、売却が完了するまでの間、農地の管理にもお金と手間がかかってしまいます。

親が農業を営んでいるが、それを継ぐ意思が無い場合には、親が元気なうちに「自分は農業を継ぐつもりはないよ。」ということを伝えておきましょう。

そして親や兄弟と話し合い、農地をどうするか決めておきましょう。

農地を売却処分するという方向で決定したら、出来る限り、親の生前に農地を処分しておくことをおすすめします。

子どもに農業を継ぐ意思がある場合は、農地を相続させるという内容の遺言書を親に作成しておいてもらいましょう。

相続税の一部については条件を満たせば、納税猶予の特例制度を利用することもできます。

親の介護をしていた人の場合

自分が介護を必要とする状態となったとき、一番頼りにするのは近くに住む子供という人が多いのではないでしょうか。

遠方の子供には頼りたくてもなかなか頼れません。そのため、兄弟姉妹間で介護の負担にどうしても差が生じてしまいます。

「介護の負担を多くかける子供には、ほかの子供より多く相続させたい」と考える人も少なくないと思います。

しかし、「自分が死んだ後に兄弟姉妹間の話し合いでうまく決めてくれるだろう」などと楽観的な考えでいては、いざ自分が亡くなったときに子供同士の間にトラブルを生じさせる結果になることがあります。

兄弟姉妹間のコミュニケーションが日ごろからうまくとれており、相続の際も「介護の負担割合に応じて分配をしよう」と全員が納得していれば問題はありません。

しかし、一人でも「法定相続分をもらいたい」と主張した場合、介護の負担割合に応じて分配することはとても難しくなってしまいます。

子供の方から、「自分が主に介護をしているのだから、ほかの兄弟姉妹より多く相続したい」などとは言い出しにくいものです。

親の方から、「財産目当てで介護をしてくれているわけではないと理解しているが、介護のために自分の生活を犠牲にしてくれているのだから、自分の気持ちとしては介護の負担割合に応じて相続させたい。

そのために遺言書を作成する」と子供たちに話してみてはいかがでしょう。

実際に遺言書を作成する際には、介護を負担してくれた子に対する感謝の気持ちを記しておくと、ほかの兄弟姉妹も納得するのではないでしょうか。

事例をご参照いただき、やっぱり遺言書を作った方がいいとお考えの方は、まずは「無料メール相談」にてお問合わせください。

一般的な遺言書のひな形をご説明します。

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